東京高等裁判所 平成10年(ラ)1835号 決定 1998年12月02日
抗告人
株式会社X
右代表者代表取締役
甲野一郎
主文
一 原決定を取り消す。
二 東京地方裁判所が同裁判所平成四年(ケ)第二八八五号不動産競売事件において別紙物件目録記載の建物につき平成一〇年六月二日にした買受人を抗告人とする売却許可決定を取り消す。
理由
一 本件執行抗告の趣旨及び理由は、別紙「執行抗告状」及び「上申書」に各記載のとおりである。
二 当裁判所の判断
1 民事執行法は、最高価買受申出人又は買受人が不測の損害を受けないようにするために、買受けの申出をした後天災その他自己の責めに帰することができない事由により不動産が損傷した場合には、執行裁判所に対し、売却許可決定の取消しの申立てをすることができる旨を規定している(同法七五条一項)。
2 そこで、これを本件についてみると、記録によれば、
(一) 東京地方裁判所は、平成一〇年六月二日、別紙物件目録記載の建物(以下「本件建物」という。)について、四八〇一万円の額で最高価買受けの申出をした抗告人に対してその売却を許可する旨の決定(以下「本件売却許可決定」という。)をしたこと、
(二) ところが、平成一〇年九月四日午前三時四〇分ころ、本件建物三階B室から出火し(出火原因は明らかではない。)、同室内にいた本件建物の所有者で本件建物の競売事件の債務者でもあるOが焼死したこと、
(三) 本件建物は、現在も、三階部分の窓が破れ、三階から四階さらには五階の外壁やベランダが黒く汚染されている状態であること、したがってまた、三階B室内部のみならず、他の部分も相当ひどく損傷していることが窺われること、
以上の事実を認めることができる。
3 右認定の事実によれば、本件建物については、その改修に相当多額の費用を要することが明らかである上、共同住宅としての市場価値も相当程度低下したことが窺われるところであるから、本件については、民事執行法七五条にいう買受人の責めに帰することができない事由による不動産が損傷した場合に当たり、かつ、その損傷が軽微であるとはいえないものというべきである。
したがって、本件については、同条に基づき、本件売却許可決定を取り消すのが相当である(なお、本件執行抗告は平成一〇年七月二二日に申し立てられたところ、その後前記火災が発生し、抗告人は、火災から一〇日後の同年九月一五日受付の上申書をもって右火災による本件建物の損傷の事実を追加的に原決定の取消事由として主張したものであるが、右経過からすれば、本件執行抗告が民事執行法一〇条三項に反するものとはいえず、また、抗告審において右火災による本件建物の損傷を認定して原決定を取り消すことが同条七項本文の趣旨に反するものではない。)。
4 以上のとおりであって、本件執行抗告は理由があるから、原決定を取り消した上、本件売却許可決定を取り消すこととして、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官櫻井登美雄 裁判官加藤謙一 裁判官杉原則彦)
別紙物件目録<省略>
別紙執行抗告状<省略>
別紙上申書<省略>